薄明 HAKUMEI

May 9 - 27, 2023: Solo Exhibition "Hakumei 1.1" Sound Installation at ALTERNATIVE SPACE THE WHITE

Supported by


Sound Design / Umeo Saito (FLEX TONE)
Photo by Shin Yamane 

薄明1.1 について


死、死者、恐山をテーマに製作した音源”薄明”を1.0として、1.1〜1.nと続き、大幅な音源の改変等で2.0へアップデートしていく連作音楽作品及び展示作品。

2023/3/29~4/2にリリースした音源「薄明」と、その音源を基軸に兜町のオルタナティヴスペースAAで行った同名の展示「薄明」。

私にとって非常に大きな意味をもつ今作は、死と死者、恐山をテーマに扱った作品だった。

音楽でこの死というテーマを扱うのは、ある意味では実はかなりありふれているとも言える。というのも音楽は元々のその出自が(無論数多ある説の中の一つとして)”儀式”に端を発する部分が大いにあると考えられているためである。人間のもつ儀式の中で最も生から遠く、それでいて最も生者の感情を揺さぶる儀式といえばやはり葬儀だろう。死者への悼みとしての葬儀、そこでは古くから音楽が必ずその傍に寄り添ってきた。西洋ではレクイエム、という呼称で儀式の一部に必ず組み込まれる葬送音楽として、また一音楽形式として今も勿論大切な役割として演奏され、創作され続けている。

しかし、私自身が今作で表現したことは、それらの形式としての死の音楽表現としての音楽作品とは、全く別の領域の概念と表現形態だった。私は大音響を必要とする音楽作品を制作し、本来物質としての形を持たないはずの音楽へ直接触れるような感覚を想起させる様な作品を作りたかった。それはある意味私自身がこういった一聴ぼんやりとした音楽の方向へ舵を切った理由の一つでもある。音楽を用いて、彫刻や絵画作品のように物理的な表現をしてみたかったのだった。それを表現するため、通常DAWを使用して制作される電子音楽制作では行われない、テンポを直接操作して一拍が伸びたり縮んだりするような時間操作を行なっていたり、一つの尺八の音色のピッチやデュレーションをやはり引き伸ばしたり縮めたりして、幾重にも重ね、新たな音色を作り出したり、あるいはある収録したピアノフレーズをまるで彫刻刀で削り出すようにEQで任意の帯域を削ったり付加したりしてフレーズに変化を加えたりしている。また収録された自然音は全て恐山のサウンドスケープである。フィールドレコーディングの面白い部分は、何処で録ろうと同じような音響特性の素材(例えば川の水や風の音などの周波数特性)を収録しているはずなのに、必ず録った本人の記憶や意図が作品にする際に刻み込まれることである。生者である私が標本にした音に意味を与えていく作業とも言える。振り返ってみると、やっていることはほとんど塑像や油彩を描く、あるいはコラージュをするような感覚に近いかもしれない。そうして越境的な感覚で絵を描くように音を描いていくことで仕上がった作品を鑑賞する上で、私自身が最も望む形として、立体音響と、大音響を必要としたのだった。

またこの薄明という音楽作品の内部では、死と、死者、恐山をコンセプトの基軸に据えた。死は、いつでも不可知である。劇作家のイヨネスコの作品に出てくる「死ぬ時は誰でも世界で初めて死ぬ」という言葉を私は反芻する。思うに、生には始まりなどなかったのではないか? 始まりの無い巨大な系統樹の枝葉の末端に、死だけがある。認識する個体である私と、私の周りに存在する私が意味を与え/与えられた ”一瞥するもの、忌み嫌うもの、愛するもの” たちの死だけが、その輪郭を顕にするのではないだろうか?

もちろん私の認識は私が意識を持ったその時からこそ始まっているのかもしれないが、死者を想うとき、私は時間を超越し、私の生を、永遠の始まりを持つ巨樹にしっかりと結びつけてくれるのだった。死者は、死者として私の生を、死者の可能性を持つ生者としての私をして、個人的な認識が生まれる以前の生の輪郭を雄弁に語ってくれる。植物のような生を生きることになった母は、逆に私の中で意味を逆さにずらしながら変容させていく。

この矛盾点そのものが、死の不可知性や音楽の鳴り終わるまで振り返ることのできないある種の経験不可能性、及び形として触れ得ない不可能性、これらの共通項を私に提示する。提示された共通項を、私は音楽作品として、そしてそれを提示する展示作品として、それこそ生者であるうちに探り続けていくつもりだ。


<薄明>

日の入り後(日の出前),しばらくは暗くならない.上空の大気が太陽光を散乱して光っているためでこれを薄明という.他に日暮れ,黄昏,夜明け,黎明[れいめい]などとも呼ばれる.

const text = '薄明1.1 について\n\n死、死者、恐山をテーマに製作した音源薄明1.0として、1.11.nと続き、大幅な音源の改変等で2.0へアップデートしていく連作音楽作品及び展示作品。

#202 

薄明1.1

AAで行った展示では暗闇の中、大音響音で死のメタファに触れてもらうための作品制作を行った。今回、限られた音量で展示を行うに当たって「クロスモーダル※参照」に着目し、光量と色によって、音の質感や強度にどの様な影響を与え、また感覚を得られるのかを作品を通して知るためのインスタレーションを制作した。

音源はアルバム”薄明”よりTrack.2 「宵 SHOU」という楽曲を使用。本楽曲は全体の流れを通して根底に”Tempo your entrire life”というテンポ指示をテーマにしている。つまり”あなたの人生のテンポで”という発想記号としてのテンポ指示である。

言ってしまえば「自由な速さで」という意味にも捉えられるが、

・他人(三人称の死)

・身近な人間(二人称の死)

・自分(一人称の死=不可知な死)

という三つの時間軸(本来自身の死を認識することは不可能な筈であるが、それなのに我々は我々の死を想像し、必ず訪れることをなぜか知っている)を外延として時間そのものを知る我々にとっては、人生の長さで、という言葉は誰しもにとって都度変化するはずである。

私はDAWを使用して楽曲制作を行なっているため毎回違う演奏やパフォーマンスをガラッと変えて行うことはほとんどしない。

だが訪れた人のその日の時間感覚や感情のあり方、聴取環境にこそ、作品の心的なテンポは宿り、それを規定している筈である。

まるで河のように流れ続ける水を掬すごとく、聴取者の耳が音を削り出すように。

※【クロスモーダル現象】

認知科学心理学で、視覚味覚、視覚と聴覚など、本来別々とされる知覚が互いに影響を及ぼし合う現象

赤い色を付けた甘味料が入った飲み物はイチゴ味を連想させるなどの例が知られる。クロスモーダル効果クロスモダリティー現象

#202

Faint Light 1.1

In the AA exhibition, I created works that allowed visitors to experience the metaphor of death through loud sounds in the darkness. For this exhibition, with limited volume, I focused on the "cross-modal phenomenon" and created an installation to explore how light intensity and color affect the texture and intensity of sound, and the kinds of sensations that can be evoked through the artwork.

The audio source used is Track 2, titled "宵 SHOU," from the album "薄明." This song's theme, present throughout its structure, is "Tempo your entire life," meaning that the tempo indication serves as a conceptual symbol for "at the pace of your life."

In a sense, this could be interpreted as "at any speed you like," but considering the following three time axes:

Death of others (third-person death)

Death of someone close (second-person death)

One's own death (first-person death = unknowable death)

Despite the fact that recognizing one's own death should be impossible, we imagine our deaths and somehow know they will inevitably come. For us, who perceive time itself, the phrase "at the pace of your life" should change for each individual over the course of their lives.

Since I use a DAW for music production, I rarely make drastic changes to my performances or play them differently each time.

However, the emotional tempo of the work should reside in and be determined by the visitors' perception of time on that day, their emotional state, and the listening environment.

As if scooping up flowing water from a river, the listeners' ears carve out the sound.

*【Cross-modal phenomenon】 In cognitive science and psychology, this phenomenon occurs when separate perceptions, such as vision and taste or vision and hearing, influence each other. For example, a drink containing a sweetener with a red color is known to evoke the association of strawberry flavor. Also known as the cross-modal effect or cross-modality phenomenon.


#205 

薄明1.1

・音源”薄明”の波形データ記録の一部

・今作のステイトメントの羅列

・上記文章の無作為出力

を行うウェブアプリをGPT-4(Open AI社のテキストベースAI)にhtmlで記述させ、これらを映像にまとめて出力した。

右側からステイトメント文が出力されている反対左側の英数文字列は、そのhtmlをいくつか記述してもらった際に生まれたバグである。AIはこれをバグと見做したが、私にはこの、本来表示する意味のない文字列に生き物の様な生ぬるさを感じ、このまま使用することにした。

Faint Light 1.1

I had GPT-4 (a text-based AI from OpenAI) create an HTML web app to perform these tasks, and then compiled them into a video output. On the right side, the statement text is being output, while on the left side, the alphanumeric strings are a result of a bug that occurred while having the AI write several pieces of HTML code. The AI identified this as a bug, but to me, these strings, which were not intended to be displayed, had a creature-like warmth to them, so I decided to use them as they were.

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